※この小説に出てくる歴史は実際の歴史とは何の関係もありません。
生物の進化の先には何が待っているのでしょう。
『未来のことだから、専門家で無い限り分からない。
いや、そんなの専門家でもわからない。』
そう考えてはいけません。なぜなら、それを知る、簡単な方法があるからです。
未来を探るためには、過去を思い出せば良いのです。歴史を振り返らない人は、何も根拠が無い空白の中で、未来をひたすら考える。そんな方法よりも、きちんと振り返ってみて下さい。身の回りにある大きい事実をもとに解明していくほうが、ずっと楽でしょう。歴史は、未来を掴む簡単な手がかりです。
私は、皆さんにお伝えしたいことがあります。さて、歴史を見てみましょう。

1
これは私達が生まれる、遥か昔の事です。ビックバンの少し後。地球がまだ存在しなかった頃の事です。
とある神は、とある星を創りました。つくったといっても、ただ乱暴に造った訳ではありません。青ざめた掌に優しく岩を握り締めて、創り上げたのです。その星の名は、グラウンドスフィア星です。神は、ある思いをこの星に託していました。どのような思いを託していたのでしょうか。今回は、その思いについて語る予定です。
さて、グラウンドスフィア星はやけに酸素やら水やら日光やら、やたらに生物が住みやすい星でした。他の星と比較してみると、こんな豊かな星は奇跡の確率でしか存在しない位でした。なぜこのような素晴らしい星が在ったのかは分かりますか?簡単ですね。あの神がその手で創ったのですから、不自然な豊かさが現れるのは当たり前です。
グラウンドスフィア星には、様々な生物が、今の地球のようにいきいきと暮らしていました。
その中でも特に発達していて、生態系ピラミッドで一番上だと思われる生物。それは勿論、人間のように知性が有り、生活を楽しむことが出来る生物でした。今回は、その生物を中心にして話を進めます。分かりやすいように、この人間のような生物を、「アルファ」と呼ぶことにしましょう。
生物たちは、子供を産み、どんどん命を繋げて来ました。アルファも、グラウンドスフィア星中に沢山生息していました。
働いて、食べて、寝る。私達の住んでいる所と同じように、社会も整って来ました。それぞれの村や国のようなものも生まれました。
そして、アルファ達は、いつもそれぞれ、喜怒哀楽、様々な表情を浮かべていました。その喜怒哀楽の中でも、特に印象に残るのは 「哀」で、最もそれらしいのは、仲間のアルファが死んだときの表情です。アルファ達は私たちのように、仲間の死に「哀」を浮かべるのです。
どうですか?人間らしいでしょう。死を悲しみ、生に喜ぶアルファの姿。アルファたちなら私たち人間の未来を語ってくれそうです。皆さん、この歴史を自分たちのものと思い、眺めていてくれませんか。
2
グラウンドスフィア星が出来て五十億年、生物が出来て三十億年、アルファが生まれて一千万年か経った頃に、とある民家に今の地球でいう「学者」のような、立派なアルファがいました。その一人のアルファは、研究を続けていました。
因みに、これから、このアルファのことを、特に 「ベータ」と名づけて呼ぶ事にしましょう。
ベータの研究は、永遠に生きるための研究です。不老不死になりたいのでしょうか。アルファという生物は、人間と同じように死を悲しむので、このような事をするのです。勿論、ベータ以外のアルファにも研究をする人は数え切れないほどいますが、そのなかでもこのアルファを主として見ていきます。
ベータは、とても優秀でした。他のアルファ達からは尊敬されている状態です。
ある日、ベータは、ある細胞を見つけ出しました。歴史を動かす発見です。それは、体内に入れると、体の中の死んだ菌などが再生する細胞です。
例えば、転んで膝を擦った時にも、 傷口にその細胞を注入すると、瞬く間に元のきれいな皮膚にもどる。つまり、死にそうになったときにこの細胞を食べると、蘇生できるのです。これは永遠に生きることを可能にする細胞です。
3
この細胞は、不老不死の薬のようなものですから、世間を驚かせました。誰もが不老不死を願っていたからです。しかし、当たり前ですが、値段が高いのです。
ところが、数年か経つ間に、じわじわとアルファ達に広まっていき、世界のアルファ全員がその細胞をもっている状態にまで達しました。それは、その細胞の作り方が漏れてしまい、作る人が増えたからです。そして、その細胞はありふれたものとなり、細胞自体の値段も下がってきたため、普及率が高くなったという理由です。
グラウンドスフィア星のアルファは、永遠に生きることが普通のようになってきました。そして、皆、子供を産まなくなりました。なぜだと思いますか?それは、新しいアルファを産むと、徐々に人口が増えていってしまって、グラウンドスフィア星に住みきれなくなってしまうからです。だから、人口を保つために、赤ちゃんを産むことは禁止になりました。
アルファ達は、細胞を飲み続けているため、やがてその細胞が不必要になりました。それは、体が、自然にその細胞を作れるように進化したからです。体内でいつも、自動的に細胞が生まれるようになったのです。
だから、いくら体を殴りつけても飛ばしても、まるで肌がゴムでできているかのように、一寸も痛みを感じさせません。また、いくら体を傷つけようとしても、まるで体がダイアモンドであるかのように、傷ひとつ現れません。
途轍もない話ですね。その、アルファ自体に共存するようになってしまった細胞は、いくらアルファの体が傷付いても、一瞬の速さで回復させてしまいます。つまり、何を行っても死なない体になりました。
アルファは、不老不死の生物そのものとなったのです。
あと、もうひとつ進化したことがあります。子供を産めない体になったのです。それは、生む必要が無いからです。
ベータの一人で、こんなにも歴史が変わるんですね。
アルファは、子供を産まない不老不死の体へと進化しました。
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しかしながら、不自然だと思いませんか?世界には、永遠に存在するものなんて、有りませんよね。 私たちも、道具も、地球も、あらゆるもの全てがいつかは壊れ、無くなりますよね。その世界の中で、アルファは、本当に永遠なのでしょうか。気持ち悪いと思いませんか?
アルファは、星が壊れるとまた次の星へ、移動して暮らしました。しかし、そのうち、皆何も食べなくなりました。それは、何も食べなくても死なないからです。
しかも、勉強や運動など、何かの練習や、体を鍛えることも一切なくなりました。楽しいこともしなくなりました。働かなくなりました。会話もしなくなりました。
どれもこれも、永遠に生きる運命になったからです。
アルファは、永遠に生きると分かったら、まるで生き物では無いみたいな生き物になるんですね。 いや、もう本当に生き物では無いのかもしれません。
5
勿論、アルファは今でも、宇宙のどこかでプカプカ浮いています。消えないからです。「物」としかいえませんね。
しかし、私たちは、これを見て笑っているわけにはいきません。私達には義務があるのです。 何の義務でしょうか。
まあ、それは後にして、地球ができる直前の出来事を聞いて下さい。アルファが生き物でない生き物になってから何年かした頃の話です。
宇宙でプカプカ浮かんでいたベータは、ある思いを託して、地球を創りました。石と石をぶつけ大きくしていき、水を与え、私達の美しい地球を創ったのです。ベータは、私達の神です。
しかし、ただ理由も無く創った訳ではありません。先ほど述べたように、神は、ある強い思いを託しています。
永遠に生きたい、などという気持ちを持っている生物がいますが、永遠に生きることになったら、どうなるのかにも考えてほしい、と今までの神は言っています。生き物らしく生きることを知って下さい。
グラウンドスフィア星を創った神も、そういう思いを託していたはずです。アルファ達の失敗は、その神の願いに気づけなかったから生まれてしまったものなのですね。
私達人間も、今、少しずつ科学の進化を遂げています。そして、地球を創った神の声も知らずに、やがて永遠の命を生み、失敗を犯してしまうかもしれません。
私達には、生まれること、命を継ぐこと、死ぬことの大切さに感謝する義務があるのです。いい加減、このエンドレスゲームは、私達で最後にしませんか?



コメント
このスケール感と発想力はまさに手塚治虫の再来ですね。
火の鳥 未来編は読んだことありますか?
以前、ニコ生で朗読してくれた作品ですね。
すごく衝撃があったので覚えてます。